中国管釣り情報〜ルアーで釣っちゃいな〜

日本にお住まいの方には殆ど知られてませんが、中国の管理釣り場は近年凄まじい勢いで発展しており、まだまだ釣り場環境面は発展途上ではありますが、魚種だけで言えば既に釣り堀天国と言われるタイ王国をも遥かに凌駕してます。このブログでは中国国内のルアーフィッシングが出来る釣堀と、ルアーで釣った魚種を中心に紹介していきます。

□ ルアーカラーリングについて Ⅱ.

前回記事 でルアーのカラーリングについて想像を膨らますべき事は、ルアーのカラーリング自体がどうこうではなく、どの色がその釣り場の水中で一番コントラストが強い色なのかという事のみなのではないかという私見を書いたが、視覚フィーダーから見たルアーカラーのコントラストに最も作用するであろう水の色(濁り具合)は、釣り場毎は勿論の事、季節や天候、時間、水深によって小さくない振り幅で変化するので、先ずは実際どのカラーリングが普段水辺に立つことが多いポイントでの、朝マズメ〜夕マズメ(夜釣りは殆どしないので)時の最大公約数であるかに絞って考えてみる。

 

 その前に”コントラスト”の整理をしておくと、「色の三属性」H(Hue):色相、S(Saturation):彩度、B(Brightness):明度、から背景色との”コントラスト”は主に3パターン存在しうるが、先ずは濁り度合いの影響を受けにくく、視覚フィーダーから常に発見されやすいカラーリングを考えるにあたり優先順最上位の色相、つまり異なる色相間の差 ”カラーコントラスト” を先に決め、その後彩度や明度を含めての ”コントラスト” をブラッシュアップしていく形にする。

 

 

(Kouki Nishidai et al. 2017)³が小型ファイバー光学分光器(USB 2000+,Ocean Optics)を用いてシルバー、ゴールド、ピンク、オレンジ、ブラウン、ダークグリーン、カラシ、ブラック計8色のルアーを波長測定し、反射スペクトルにおける反射率の最大値を各ルアーの最大反射率と定義した結果、最大反射率はオレンジ、ピンクが抜きん出て高く、カラシ、シルバー、ブラウン、ゴールド、ダークグリーン、ブラックの順番で低い Fig.7。また、前記事中Fig.3, Fig.4 から濁度が上がってもオレンジ、ピンク、カラシは釣果が落ちにくいこと、Fig.8からはオレンジ、ピンク、カラシの順で反射スペクトル最大反射率が濁度の影響を受けにくいこと、つまり濁りが強くなっても視覚フィーダーから発見されやすいことが見て取れる。

 

Fig.7,Fig.8 Interacting effects of lure color and turbidity on foraging response by rainbow trout (Oncorhynchus mykiss). Kouki Nishidai and Atsushi Maruyama. Japan. J. Ichthyol., 64(2): 115-116, 2017.


上記実験結果をふまえた上で、Munsell color systemを参照し普段水辺に立つことが多いポイントでの平均的な水の色に対して、対極にある色相を見ていくとFig.9, Fig10の白丸枠内5YR〜10Rのオレンジとなる。これは(Kouki Nishidai et al. 2017)³が研究を行った滋賀県西部 朽木渓流魚センタールアーフィールド「第1ポンド」(35.2796 ̊N, 135.8458 ̊E) の水の色との差異を考慮しても、実験結果と矛盾しない。

Fig.9, Fig10 By File: Three-dimensional representation of the 1943 Munsell renotations (with portion cut away). Notice the irregularity of the shape when compared with Munsell's earlier color sphere. Munsell-color-communication-hue-designation-circle.jpg

 

そこで、未塗装の各種バルクルアーを全て腹側のみオレンジに簡易塗装、背側はマットクリアでのコーティングのみとし、出来る限り他色の誘因効果によるバイトを避け、純粋にオレンジ色自体の誘因効果をみたい為フックもなるべく近い色(同色のフックが入手で出来なかった為)の物を使用した。本来は目玉も同色の物を使用するか、そうでなければ付けるべきではないが、投げ続けるモチベーション維持のためここは妥協し、現在まで約三ヶ月間 週2〜3回このカラーリングのルアーのみで実釣検証を行っている。

 

 

背側をオレンジに塗装しなかった理由は、普段水辺に立つことが多いポイントは水深1〜3m前後の浅瀬なのでルアーを深場まで沈めて泳がす事がほぼ無く、捕食フィーダーが上からハードルアーを発見して追跡する場面が想像付きにくかった事と、(Masaru Okamoto. et al. 2001)⁸ が背景色を変えてルアーカラーリングとのコントラストによる選好性を調査した行動実験で、水中では一番見えにくいと思われる透明色に対する食いつき回数は安定して多かったという結果が気になったからだ。考えられる理由が二点上げられており、その一つが実験対象魚の視覚のコントラストしきい値が相当低く、透明なルアーもかなりハッキリ見えていた可能性。もう1つはエサの学習効果で、実験対象魚が野生下でアミ類や稚エビ、稚魚など透明か半透明に近い生物を主食としていたであろう事による学習効果の可能性だ。普段水辺に立つことが多いポイントにも半透明に近い稚エビ類は多いので、ルアーを沈めれば魚が上から透明のルアーを発見する事になり、この検証も出来るかもしれないというささやかな目論みはあるが、実際のところ全身どぎついオレンジ色のケバケバしいルアーをあまり使いたくないというのもある。

 

 

続く

 

 

 

 

参考文献

1) Hiroshi Sakazume and Koichi Kanamori
The Effect of Colored Plate Depressor on Catch
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2) Craig W. Hawryshyn, Margaret G. Arnold, William N. McFarland, and Ellis R. Loew.
Aspects of color vision in bluegill sunfish (Lepomismacrochirus):ecological and evolutionary relevance
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3) 西大嵩樹・丸山 敦
ニジマスの採餌応答に見られるルアー色と濁度の交互作用
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4) Horne, A. J. and C. R. Goldman.
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5) Ole Seehausen,  Jacques J M van Alphen and F. Witte.
Cichlid fish diversity threatened by eutrophication that curbs sexual selection. 
Science, 277: 1808–1811,  1997

6) Andrew. D. Moraga, Alexander D.M. Wilson, Steven J. Cooke 
Does lure colour influence catch per unit effort, fish capture size and hooking injury in angled largemouth bass?
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7) Ginetz, R. & Larkin, P.
Choice of Colors of Food Items by Rainbow Trout (Salmo gairdneri)
 Journal of the Fisheries Research Board of Canada 30(2):229-234,1973

8) 岡本一、川村軍蔵、田中淑人
異なる背景色におけるスズキのルアー色の選択
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9) Justin Marshall.
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10) Lisa D. MITCHEM, Shannon STANIS, Muchu ZHOU, Ellis LOEW, John M. EPIFANIO, and Rebecca C. FULLER.
Seeing red: color vision in the largemouth bass
Current Zoology 65(1) 43–52, 2019
11) 羽生功
魚の色覚
化学と生物10-3 184-186, 1962

12) GunzoKAWAMURA* AND ToshihisaKISHIMOTO.
Color vision, accommodation and visual acuity in the largemouth bass
FISHERIES  SCIENCE 68 1041–1046, 2002

13) 深町昌司
魚類の色覚 ~水中の多彩な光環境への適応~
日本色彩学会誌 第 43 巻 第 4 号 219 - 222, 2019